Hybrid ERについて

外傷全身CTの歴史

 1975年のCTの登場により、画像診断は大きく進歩しました。外傷領域においても、X線検査や超音波検査ではわかりにくい損傷が、CTではより簡単に見つけることができることが知られていました。しかし、通常は外傷初療室からCT室まで移動し、撮影を終えて帰って来るまでに少なくとも20-30分はかかります。このため、呼吸や循環の安定しない重症外傷においては、CT検査は行うべきではないという考え方が主流であり、CTは"死のトンネル"とさえ呼ばれてきました1。重症患者こそ迅速かつ的確な診断が必要であるにも関わらず、救急医の"かんや経験"をたよりに治療をすすめざるを得なかったのです。

CT写真

 1998年にマルチスライスCT(MSCT)が商品化され、撮像時間の短縮、空間分解能の向上が図られ、CTは救急領域においてますます多用されるモダリティーへと進化しました。この流れに伴い、2009年にはドイツの研究グループが外傷初期診療において全身CTを撮影すると、予測される救命率よりも高い確率で救命できたことを報告しました2。ここから、外傷診療においてCTの有用性は世界的に大きな議論となり、2016年にはREACT-2試験という世界初のランダム化比較試験が報告されました3。結果は、重症外傷が予想される患者さんに全身CTの検査をしても、死亡率に変化はないというものでした。多くの外傷医達はCTが有用であると考えているにも関わらず、実際にそれを証明することは難しかったのです。

Hybrid ERの誕生

 我々の施設では、2011年8月に外傷初療室にIVR-CTを設置し、全く新しい外傷初期診療のシステムを開発しました。このシステムでは、ストレッチャーから患者さんを寝台に移せば直ちにCT検査を開始できるため、CT検査を行うために余計な移動の時間が全くありません。更に、外科手術やカテーテル手術が必要となっても、全て初療室内で救命処置を行うことが可能です。従来はCT検査を行うことが考えられなかったような重症の患者さんに対しても、安全にCT検査を行い、確実に損傷を把握してから手術が開始できる、まさしく画期的な外傷初療システムです。我々はこの初療室を、外傷診療において必要な"検査"と"治療"を1つの部屋で行える初療室として、「Hybrid ER」と名付けました。

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Hybrid ERによる重症外傷の救命率向上

 2017年、我々の研究グループはHybrid ER導入前後8年間の外傷患者さんのデータを収集し、従来のシステム(Conventional群)とHybrid ERの治療成績を比較しました。その結果、CT検査を開始するまでの時間が従来26分かかっていたものが11分に短縮し、緊急手術を開始するまでの時間も68分から47分まで短くなっていたことがわかりました。更に、患者さんの死亡率は22%から15%にまで低下し、特に失血死の確率は8%から3%と半分以下にまで抑え込むことができていました(図1)。この結果は米国外科学会の公式誌であるAnnals of Surgery誌から発表され4、日本のテレビ番組や新聞での報道に加え、ロイター通信5など海外のメディアでも取り上げられました。


図1

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これらの業績が注目され、2018年1月現在日本で8施設、韓国で1施設の救命センターにIVR-CTが導入されています。我々は外傷患者さんの救命率向上に貢献できるよう、このシステムを世界に広めていくための様々な活動を行っています。


1. Mackay A. Is the 'tunnel of death' a suitable modality for investigating the severely traumatized child? Aust N Z J Surg. 1999;69:587-8

2. Huber-Wagner S, Lefering R, Qvick LM, et al. Effect of whole-body CT during trauma resuscitation on survival: a retrospective, multicentre study. Lancet. 2009;373:1455-61

3. Sierink JC, Treskes K, Edwards MJ, et al. Immediate total-body CT scanning versus conventional imaging and selective CT scanning in patients with severe trauma (REACT-2): a randomised controlled trial. Lancet. 2016;388:673-83

4. Kinoshita T, Yamakawa K, Matsuda H, et al. The Survival Benefit of a Novel Trauma Workflow that Includes Immediate Whole-body Computed Tomography, Surgery, and Interventional Radiology, All in One Trauma Resuscitation Room: A Retrospective Historical Control Study. Ann Surg. 2017 Sep;Epub ahead of print

5. Reuters Health