HERS研究会とは

Hybrid ERにおける外傷初期診療

 当センターは2011年8月に世界で初めてIVR-CTを外傷初療室に設置し、従来のガイドラインとは異なる新しい外傷初期診療システムを用いて治療を行ってきました。その結果重症外傷の治療成績は劇的に向上し、その成果は世界中から注目を集めています。

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 しかし、Hybrid ERをはじめてすぐの頃は、この新たな機械をどう使えばよいのか、試行錯誤の連続でした。CTに固執するあまり、救命処置が不十分なまま検査をはじめてしまい、撮影中に患者さんの状態が悪化し検査を中断せざるを得ないといったことも起こりました。世界で最初に導入した施設であるがゆえ、我々も効果的な使い方がわからなかったのです。結果的に、導入して最初の一年間はむしろ治療成績が少し悪化することとなりました(図1)。ここから医師・看護師・コメディカルで様々な意見を出し合い、外傷初期診療のシステムを改善していきながら、徐々に治療成績も向上していったのです。

 Hybrid ERの最大の利点は、搬入からCT検査・緊急手術までの時間が短いことです。例えば、頭部外傷と骨盤骨折を合併している症例の経過をみてみましょう(図2)。従来の初療であれば、来院してからX線検査、超音波検査を行い、CT検査室に向かいます。CTで頭部外傷と骨盤骨折を認知し、血管撮影室に移動する間に経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)の準備ができます。TAEが終わりそうになった段階で、外傷初療室で穿頭手術の準備をはじめ、部屋を移動した後に手術を行います。一方、Hybrid ERでは、来院してすぐにCTを撮影し、短時間のうちに様々な手術を開始することが目標になります。このためには、治療を行う医師は迅速な判断が求められ、看護師は速やかに手術準備をする必要があり、また、放射線技師は適切なタイミングでCT検査を始めなければなりません。すなわち、いかに多職種が上手く連携しながら初療を進めるかということが、成功のカギを握っているのです。

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Hybrid ER System (HERS)研究会の立ち上げ

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 2016年、Hybrid ERにおける外傷初期診療を改善するために、医師、看護師、放射線技師、薬剤師をメンバーとした多職種カンファレンスを立ち上げました。Hybrid ERにおける最適な外傷初期診療を研究する会として、Hybrid ER System (HERS)研究会と名付けています。
 主な活動は毎月第2・4水曜日に開催される症例検討会で、Hybrid ERで手術・IVRを行った全ての症例のビデオを振り返っています。議論する内容は治療戦略や手術手技だけではなく、"スムーズに手術につなげるための準備ができていたか?"ということです。例えば、来院前に医師・看護師のリーダーは明確に宣言されていたか。リーダー医師は治療方針を示し、チーム内で共有できていたか。リーダー看護師は手術や輸液・輸血を管理する看護師に具体的な指示を出し、またバイタルの変化に的確に対応したか。細かいところをひとつずつ検証し、多職種が分け隔てなく意見を言い合います。画像や熱型表を見るだけではわからない個人個人の動きが丸見えになるため、参加者全員が反省点を持ち帰れるような仕組みになっています。このような取り組みを通じて、2016年は緊急手術開始までの時間の中央値が32分にまで短縮しました。
 最近では外部の施設の先生方にも積極的に参加していただき、自施設のメンバーだけでは気づくことのできない、様々なアイディアをいただくこともできるようになってきました。我々はこの会を通じて、Hybrid ERにおける外傷初期診療の基本となるものを作り出し、全世界に広げていきたいと考えています。